振袖の長襦袢 -機能性と装飾性-
一般的に「きもの」と呼ばれる装いは様々な部分から成り立っていますが、表着のきものを総称して「長着」(ながぎ)といいます。 「襦袢」の語源はポルトガル語で肌着を意味する「ジバン」に由来します。 長着の下に着る下着としての機能性と、色彩コーディネートとしての装飾性が重視される長襦袢は、長着の格や用途によって決まり事があります。留袖などのフォーマルな着物であれば、長襦袢も正絹生地で仕立てるのが一般的です。また、半衿も白地の正絹のものがフォーマルですが、振袖には華やかな刺繍や色柄物の半衿に伊達衿を重ねたコーディネートも見られます。 長着:五つ紋付の黒留袖・色留袖 長着:振袖 長着:三つ紋または1つ紋付の色留袖・無地・江戸小紋/訪問着・付下 長着:小紋・紬・ウールなど 長着と長襦袢の素材は揃えた方が良いとされるため、正絹の振袖には正絹の長襦袢を合わせることが一般的ですが、レンタルの場合など、化繊の長襦袢が選ばれることもあります。 成人式の振袖には礼装用の淡いピンクなどの長襦袢が一般的ですが、多彩な色柄で自分らしくこだわったコーディネートをするのも魅力的です。 古来より繊細であった日本人の美的感覚は、自然の美に対する敬意を衣裳の色彩にまで反映させてきました。
長着には振袖・留袖のような礼装も普段着のきものもすべて含まれますが、その長着のすぐ内側に着て、着姿をととのえる役割もある下着が「長襦袢」(ながじゅばん)です。
長着に女物や男物、「袷」(あわせ・裏地がある着物)や「単」(ひとえ・裏地がない着物)があるように、長襦袢も季節や着ていく場所によっていくつかの種類があります。
長着の衿から見せる事でコーディネートを楽しむ半衿は長襦袢に縫い付けて使います。
礼装用の長着には白や淡い色の長襦袢に白を基調とした半衿が一般的ですが、成人式の振袖には、華やかな刺繍入りの半衿に多彩な色柄の長襦袢を合わせるなど、より愛らしいコーディネートも用いられます。
長襦袢の語源と歴史
元々は、上半身のみの肌着を指しました、そのため、長い対丈のものを長襦袢と呼ぶようになりました。
「対丈」(ついたけ)とは、おはしょりや腰揚げといった丈の調整をせず、身長に合わせてそのまま着られるように仕立てた襦袢です。
肌着・裾除を着た上に腰ひもで留め、衣文を抜いて長着より少し短いくらいに着られるのが一番綺麗な仕立て方とされます。
上半身のみの短い下着には「肌襦袢」「半襦袢」などがあります。
「肌襦袢」は肌の上に直接着るもので、単に肌着と呼ばれることもあります。主にさらし木綿やガーゼなど通気性の良い生地で作られます。肌と長襦袢の間で汗や汚れを取ったり補整を助けたりする役割を果たします。
「半襦袢」は長襦袢の代用となる襦袢で、身頃が腰までの長さで、薄地の木綿などで仕立てたものです。長襦袢と同様に衿と袖が外から見えるため、半衿をつけ、袖も長着と調和した生地で仕立てます。
肌襦袢も半襦袢も上半身のみの襦袢なので、下半身に着る巻スカート型の下着「裾除」(すそよけ)を合わせます。肌襦袢と裾除と一体化したワンピース型のものも広く普及しています。
対丈の襦袢が長襦袢と呼ばれるようになったのは江戸時代の中期からといわれています。古くは装束の下着は小袖、または肌小袖と呼ばれていました。安土・桃山時代あたりからこの小袖が表着になり、江戸時代になるとさらに華やかさを増していきます。
富裕な町人層が増えた元禄時代(1688~1703)には、贅沢な衣服の着用を禁ずる奢侈禁止令(しゃしきんしれい)が度々発令されました。
それを受け、隠れたところで贅を尽くした下着の装飾化が進み、男女問わず贅沢な長襦袢が流行しました。無地から色・柄物が増え、繍い、絞り、描き絵などがほどこされたものもあらわれます。
その際に袖や裾、衿元のように、ちらりと見える部分だけに上等な布や美しい色目の布を重ねて使うなど、様々な工夫も凝らされました。
贅沢でありながらさり気なく見せるお洒落は、江戸っ子の「通」(つう)や「粋」(いき)の心も反映されていたのでしょう。
このような日本人特有の美的感覚は、現代のきもののコーディネートにも着実に受け継がれています。長襦袢の種類とTPO
・礼装(留袖)
長襦袢:白のフォーマルなもの
半衿:白(塩瀬など)・礼装(振袖)
長襦袢:白や淡いピンク系などのフォーマルなもの
半衿:白や刺繡入り・振袖に合った色柄物
伊達衿(重ね衿)・準礼装
長襦袢:白、色無地、絵羽柄など
半衿:白や刺繡入りのもの
伊達衿(重ね衿)・普段着
長襦袢:白・色無地・絵羽柄・小紋柄など
半衿:白、型染、絞り、カジュアルな色柄物
長襦袢は、季節によってもいくつかの種類に分かれます。
長着は秋~春頃には裏地のある袷、初夏~秋頃は裏地のない単(ひとえ)を着ます。単の時期には長襦袢も単になります。透け感のある絹の絽(ろ)や紗(しゃ)、絽の半衿を合わせます。さらに真夏には麻の長襦袢に絽や麻の半衿を合わせ、涼し気に装います。
また、気温が上がり汗をかきやすくなる時期には、洗濯などお手入れがしやすい化繊や、綿麻と化繊の混紡素材の長襦袢もよく用いられます。振袖用の長襦袢
化繊は手元で水洗いもできるお手入れしやすさ、正絹と比べた際のお手頃感が魅力です。一般的には熱が籠りやすい、生地が滑りやすい、などのデメリットがあります。現在では正絹と見紛うような高品質な生地も開発されています。
正絹は、洗濯などお手入れのしにくさや虫害を受けやすいといった難点がありますが、フォーマルな着物らしい高級感、通気性の良さや着崩れのしにくさなどの着心地の良さが利点ですます。
晴れやかな日を祝う振袖では、正絹の振袖と長襦袢で着やすく過ごしやすく、袖の振りや半衿、伊達衿にあらわれる色目の組み合わせにも一緒に楽しんでみてはいかがでしょうか。長襦袢の反物の生地、色みや柄
「絞り」や反物の中央を白く残し両端を染めた「振りぼかし」、一色で引き染めをした「引き切り」などの長襦袢もお嬢様らしく可憐です。
また、個性的でありながら、日本の伝統色を基本としているため、礼装としての格調の高さを保ちつつ、可愛らしさが際立ちます。最後に
同時に、衣服の重なりからわずかに見える部分や、まったく見えない部分にまで心を配り、時には遊び心も交えながらお洒落を楽しんできたといえるでしょう。
そのような美意識は、きものの世界に今なお生き続けています。
振袖に合う長襦袢を選ぶ際、日本ならではの配色美に思いを巡らせながら、とっておきの一枚を誂えてみてはいかがでしょうか。